情報・指示を正確に伝えることは難しい
「こういう風にしてください。」、「こうすることがよい。」という指示や情報が流れることがあります。
仕事をしている中で、出来上がったものを上司に持っていくと、「そういうつもりじゃなかったんだよね。」と言われることがあります。
また、後輩に仕事を依頼し、その出来上がったものを見ると、「どうしてこうなったのかな?」と思いながら、修正を依頼したり、自分でやり直したりすることがあります。
なかなか、情報や指示を伝えることは難しいな、と思います。
コミュニケーションのズレについて別稿でも述べましたが、ここでは前提とする場面に着目したいと思います。
想定違いの解消方法
想定する場面を共有
指示や情報の伝達がうまくいかない原因の一つは、人によって想定する場面が違うことがあると思います。
指示をする側からすると、この場面、この流れで話すのだから、前提とする状況は相手にも共有されていると思って話しています。
しかし、上司が持っている情報を部下は持っていないなどの理由で、前提とする状況が共有されていない可能性はあります。
eメールの宛先にCCで含まれる人が増え、情報共有者が誰なのか、分かりにくいこともあります。
この状況を解決するには、想定する状況を情報や指示とともに伝えることが必要です。
指示をする側は、自分が想定する状況は分かっていますので、ちょっと手間かもしれませんが、それを伝える方がよいと思います。
そんな分かり切ったことを何でいうのか、という思いを相手に持たれることはあります。
しかし、コミュニケーションの失敗が原因となり、ミスをしてしまったり、余計な時間・手間をかけることに比べれば、ましだと思います。
また、部下の立場では言いにくいかもしれませんが、「念のため」として、想定している状況を明確化することも有効です。
この場合、指示する側は、面倒がらずに対応することが必要です。
指示変更時には、変更以前の指示も明示
コミュニケーションがうまく行かない状況としてよく見受けられるのは、指示の変更がある場合です。
指示する側は、変更した結果のみを話しがちですが、受け取る側と適用範囲の理解にズレが生じることがあります。
これを防ぐには、想定する状況を話すのと同時に、変更以前の指示を明示することが考えられます。
変更以前の指示を提示することにより、想定される状況が理解でき、変更の範囲も伝わります。
前提とする状況を確認
病院ではしっかり伝えないと危険
このようなことは、仕事だけでなく、私生活でも生じます。
以前、父が入院したときに、「病院食以外は食べないでください。」という指示を医師から受けました。
病院食が口に合わなかったため、父は全く食事をすることができず、やせ細ってしまいました。
後から考えると、医師の指示は「検査前には」ということであったと思われ、それは言わなくても分かると思い込んでいたのだと想像されます。
しかし、父は「ずっと」と理解していたのです。
これは、命に関わる重大事項です。
患者と家族の立場からすると、病気の治療に意識が向いており、検査の前後で違うことの思いが及ばないこともあります。
お忙しいとは思いますが、医師など医療関係の方には、患者には心の余裕がないことを理解し、丁寧な説明を心掛けていただけますとありがたいです。
結論だけ聞いたときの対応
また、テレビやインターネットでは、短時間で分かることが優先され、結論だけが示されることがよくあります。
社会全体が忙しくなり、より早く情報を得る必要があるのは確かでしょう。
また、結論があればとりあえず行動に移せますので、即時の対応が必要な場合には、「逃げろ!」などの結論のみで十分な場合もあります。
しかし、前提状況を共有しないと、聞き手がそれぞれに状況を勝手に想像し、十人十色の理解になってしまいます。
同じ情報に接した人の間で適用範囲の理解が異なり、対立が生じることもあります。
そこで、即時の行動が必要な場合には結論だけを示すとしても、考える余裕があるときには前提状況の共有が必要です。
例えば、新型コロナウイルス感染症拡大予防策の、
(1)「マスクを着用する」こと、と
(2)「ソーシャル・ディスタンスをとる」こと、は、
一方をできない場合に、もう一方をすることが必要なのですが、標語だけを聞き、両方必要だと思いがちです。
詳しくは、別稿をご参照ください。
面倒がらずに状況を共有しよう
なかなか難しいことですが、結論だけでなく想定する状況の共有はとても大切です。
面倒がらずに、共通の状況理解をするための時間をとることを、心掛けてはいかがでしょうか。
都内国立大学で、微生物や植物細胞を用いた研究を行った後、がん遺伝子やレトロウイルスの研究を行い、博士(医学)を取得しました。会社員生活を経た後、実定法から基礎法まで幅広く学び、法務博士(専門職)を取得しました。
大学院修了後には、戦略系経営コンサルティングファームに入社し、製造業やサービス業の、業務改革や新規事業開発に取り組みました。その後、創薬系バイオベンチャーで、がん治療に関する研究開発・事業開発を行いました。現在は、訴訟関連の法務サービスに従事しています。