試験対策では、まず問題演習を始めることが大切
別稿で、仕事や研究でも取り組みながら学ぶことが大切だと述べました。
同じことが、試験勉強についても言えます。
むしろ、試験勉強の方が、早めに取り組むこと、具体的には、問題演習を開始することが大切です。
試験勉強をする目的は、試験を突破することにあります。
勉強をする目的は、試験突破に限られませんが、ここでは試験勉強に特化して述べたいと思います。
高校入試・大学入試
過去問を繰り返し、解答パターンを身につける
高校入試・大学入試については、過去問も公表されていますし、マークシート式や短い記述式では答えも分かっています。
国語の読解問題を除けば、おおよそ誰が見ても同じ回答が正解になると思います。
そこで、一通りインプットしたならば、過去問の演習に取り組み、問題のレベルを把握すると同時に、正解を導けるまで繰り返すことが重要です。
もちろん、同じ問題は出題されませんが、過去問が一通り解けるようになると、実際の入試でも、相応の点数が取れます。
また、大学入試などで、長文の記述式試験が課されることがあります。
この場合には、一字一句同じ解答をする必要はありませんが、内容的に同一の解答ができるようにすることが大切です。
たとえ、初見では解けなくても、問題ごとの解答パターンをつかむことはできるでしょう。
そして、解答パターンが身につくまで繰り返せばよいのです。
試験官が正解としやすい解答を心掛ける
記述式での注意点は、独創的な、試験官に伝わらない解答は行うべきではありません。
たとえ、歴史の専門書を読んでいても、教科書の記載と異なる解答はしてはなりません。
試験官がたとえ知っていたとしても、採点基準に含まれていなければ正解とはなりませんし、試験官が知らなければ、当然不正解です。
また、自分にとっては当然のことでも、理解していることを示すために省略せずに記載すべきです。
以前読んだ数学者の本に、証明問題のエピソードが書かれていたことが思い起されます。
著者にとっては当たり前だったため、解答欄には「明らか。」と記載したところ、不正解とされたそうです。
試験官には、よく理解していて「明らか。」なのか、分からないから「明らか。」と記載したのか判断できませんから、致し方ありません。
一般的な試験官を意識して解答しなければならないのです。
また、以前テレビで取り上げられていた算数の問題も思い出しました。
「3.9+5.1=」という問題に「9.0」と解答したところ、「9.0」の「0」に斜線が引かれて減点され、「9」としなければならないとされたというのです。
理科の有効数字1ならともかく、算数ならどちらでもよいと思うのですが、減点されないために、教えられたとおりに解答すべきです。
また、直方体の体積も、縦、横、高さの掛ける順番が教えられており、その順番通りに掛けないとと減点されるそうです。
体積に、掛け算の順番は関係ないのですが、教えられたとおりに解答すべきです。
教えている先生が分かっていない場合だけでなく、教科書通りでなければ減点するという指導が先生に対してされている可能性もあり、先生を責めるのは可哀そうです。
先生の立場を考えて差し上げるのも、大切なことです。
もちろん、教えられたとおりに解答することは、学問的には何の価値もありません。
一方で、波風を立てて、試験で苦労する必要もないほど、ちっぽけなことです。
素晴らしい才能や知識を、入試で発揮する必要はないのです。
模試の復習も大切
試験対策で模擬試験(模試)を受験することもあるでしょう。
模試を受けると、ついつい成績にばかり目が行ってしまい、復習を疎かにしがちです。
しかし、一番大切なのは、できなかった問題を解けるようにすることです。
試験は競争試験ですから、絶対的な出来不出来ではなく、順位で合否が決まります。
そこで、同じ入試を受けるであろう人が解ける問題は、復習して解けるようにしておくことが必要です。
知識は答案に示さなければ無意味
一定の知識を入れたならば、まず問題演習をして、分からない場合に参考書で調べる方が効率的です。
問題が解けないことに気付くと、理解が不十分なことに気付きますし、同じ文章を読んでいても理解度が変わってきます。
試験対策という観点から考えると、どれだけ豊富な知識があったとしも答案に示されないことには、点数は付かないのです。
私の失敗
恥ずかしながら、私の大学入試での失敗を反面教師とすべく記載します。
私は、知識を得ることが楽しく、重層的な知識を得ようとして、インプットにばかり時間を割いていました。
そして、何冊も参考書を買い込み、隅から隅まで読んでいました。
一方で、入試問題は大切なものと思い込み、入試1ヶ月前になるまで、やらずに取っておきました。
幸いにも、ある程度解けたため、問題は生じませんでしたが、早くに取り組んでいれば問題パターンにも慣れることができ、もっと高得点が取れたと思います。
また、模試は合否の判定と順位にしか意識が行っていませんでした。
解答集は、〇×を付けるためにしか用いておらず、解説もざっと読んでおしまいでした。
きちんと復習して、間違えた問題を解けるようにしておけば、もっと有意義な受験生活を送れたと思います。
司法試験
資格試験でも問題演習に取り組むことが大切
私が受験した資格試験である司法試験でも基本的には同じです。
できるだけ早めに過去問に取り組み、正解を短時間に導く力を身につけることが必要でした。
司法試験が、高校入試・大学入試と少し違うのは、明確な解答、採点基準が示されないことです。
出題者の意図を読む必要があると言われることもありますが、大きな方向性は示されており、演習を通して解答の方向性を身につけることが求められます。
私の失敗
ここでも、私の失敗を反面教師として記載します。
理系出身の私にとって、法学の勉強は新鮮でとても楽しいものでした。
そこで、自分の興味の赴くままに、多様な視点の概説書や論文を読み、自分の頭の中で重層化・構造化することを楽しんでいました。
そして、試験とは無関係の、外国法や法制史に深入りしてしまい、試験対策が疎かになってしまいました。
法科大学院の試験では、出題者の想定した法律構成でなくても、論理的に成り立つものならば正解とされていました。
あくまで私の想像ですが、司法試験では採点基準がより厳格であるため、正解となる解答は法科大学院の試験よりも狭い気がします。
私は、論理的に成り立てばよいと考えてしまい、求められる答案とは違うものを書いてしまい、結果として点数が付かなかったのだと思います。
理系は比較的、道筋が正しければ正解となる気がします。
そのため、想定されている答案構成に意識を払ってきませんでした。
今から考えると、以前に読んだ本の内容を思い起こすべきでした。
ノーベル物理学賞を受賞した湯川博士が、数学を嫌いになったエピソードとして、三校の数学の試験で、先生の示したやり方以外で解答したところ、正解のはずの解答が不正解とされたことが、記載されていました2。
このエピソードを意識していれば、もっと出題者の意図を考えていたことでしょう。
試験に合わせた演習が大切
長々と書いてきましたが、こと試験に関しては、試験で点数を取るために、試験に合わせたアウトプットを重視すべきだと思います。
興味の赴くままに知識を漁るのは得策ではないと、私の拙い経験から申し上げます。
- 実験結果などで、上から何桁目の数字まで信頼できるかを示すもの。例えば、大体1kgの物と、正確に1.02kgの物があるとき、2つの物の重さの合計を考えるとします。「1+1.02=2.02」としがちですが、「大体」1kgの物と「正確に」1.02kgの物の数字を、単純に合計してはいけません。なぜなら、大体1kgが、0.95kgなのか1.049kgなのか分からないからです。そこで、大体1kgでは一桁しか正しい値ではないと考え、重さの合計は少ない有効数字である一桁に合わせ、2kgとします(「正確に1.02kg」の有効数字は三桁。)。なお、抽象的な算数ではなく、具体的な重さなどでは、1kgと1.00kgは別物です。1kgは1.2kgなども含み得ますが、1.00kgに1.005kgは含まれないからです。[↩]
- 湯川秀樹著「旅人 ある物理学者の回想」(角川ソフィア文庫、改版3版、2019年)188ページ以下に、「立体幾何の時間であった。『注意点(引用者注:六十点以下が不合格、六十点から七十点が注意点。)をとった者は・・・』・・・『小川(引用者注:湯川博士の旧姓。)・・・』・・・答案を見ると、三問中の三番目が、たしかに零点になっている。従って点数は、はっきりと六十六点である。私は急いで、私の解答を検討して見た。証明は、どこも間違ってはいない。ではなぜ零点なのか? 私は友だちにも、きいて見た。友だちも私の証明の正しいことを認めた。しかし、一人のクラスメイトは、『それはね、先生の証明のしかたと違うからだめだったんだ』と言う。『あの先生はな、自分の講義中にやった証明の通りにやらないと零点なんだ』・・・数学に対する興味がいっぺんに冷却してしまった自分を、どうすることも出来なかった。」と記載されている。[↩]