「マスク着用」における「目的」と「手段」
コロナウイルス感染症拡大に伴い、街中では多くの人がマスクを着用しています。
人混みだけでなく、周りに人がいない場所でも、暑さに耐えてマスクを着け続けている方もいらっしゃいます。
熱中症予防の観点から、人がいないところではマスクを外して構わないとのアナウンスがされていますが、マスクを外さない方も多く見受けられます。
そこで、「目的と手段」という観点から、マスク着用を考えてみたいと思います。
大枠で考えると、
「目的」は、「新型コロナウイルスに感染しない」こと、
「手段」は、「マスクを着用する」こと、になります。
感染経路ごとの考察 ~感染させられる可能性~
新型コロナウイルスは、「飛沫感染」と「接触感染」が主な感染経路1と言われています。
また、「3密」空間での「空気感染」の可能性も指摘されています。
なお、厚生労働省は「3密」について、
(1)換気の悪い「密閉空間」、
(2)多数が集まる「密集場所」、
(3)間近で会話や発声をする「密接場面」、
の3条件がそろう場所がクラスター(集団)発生のリスクが高い!、としています。
「飛沫感染」しない
「飛沫感染」を防ぐために「マスクを着用する」ならば、飛沫が飛んで来るところでは、マスクの着用は必要ですが、飛沫が飛んで来ないところでは、マスクの着用は不要です。
言い換えますと、せきやくしゃみをしている人や、大声で話している人の近くには、飛沫が飛びますが、そのような人がいないところでは飛沫は飛んで来ないため、マスクの着用は不要です。
なお、「飛沫」とは、直径5μm2以上の液滴とされ、飛距離は1m以内とされています1ので、1~2m離れたならば、マスクの着用は不要です。
「接触感染」しない
次に、「接触感染」を防ぐために「マスクを着用する」ならば、感染経路とされる鼻や口に、ウイルスが付着している物に触れた手指で触れないことが目的ですので、周囲に人がいるか否かは関係ありません。
もっとも、
(A)何かに触れたらこまめに手指消毒し、手指に付着したウイルスを除去することにより、鼻や口に触れてもウイルスを取り込まないようにしたり、
(B)訓練をして、鼻や口に触れないようにすれば、
マスクの着用は不要です。
「3密」空間で「空気感染」しない
さらに、「3密」空間での「空気感染」については、もう少し細かく考える必要があります。
念のため記載しますが、「(3)間近で会話や発声をする『密接場面』」では、「会話や発声」が条件となっていますので、「会話や発声」がなければ「3密」にはならないのです。
一口にマスクといっても、機能や目の大きさはさまざまであり、「マスク」と名の付くものを着用していれば、感染が防げる訳ではありません。
不織布マスクは飛沫の通過を防げる可能性は高いものの、直径0.1~0.2μm3とされるコロナウイルスは通過してしまうかもしれません。
もっとも、コロナウイルスは直径5μm未満の飛沫核として浮遊しており、コロナウイルス単独で存在するとは考えにくく、通り抜けるする割合はかなり低いと思われます。
なお、顔とマスクの間にすき間がある場合には、そこから飛沫核を吸い込む可能性はあります。
しかし、布マスクやガーゼマスクの目は大きいため、大きな飛沫は防ぐことはできても、直径5μmほどの小さな飛沫の多くは通り抜けてしまい、「飛沫感染」すら防げない可能性が高くなります。
もっとも、大きな飛沫は防げますので、全く役に立たない訳ではありません。
ちょっとしたイメージですが、「魚を捕らえる網」といっても多くの種類があります。
大きな魚を捕らえる目の粗い網で、大きな魚は捕らえられても、メダカのような小さな魚は捕らえられません。
そこで、捕らえる魚(目的)に応じて、適切な目の網を選ぶ(手段)のです。
まとめますと、不織布マスクなどの高機能マスクを正しく着用するならば「マスクを着用する」ことに意味はありますが、それ以外のマスク使用はあまり意味がありません。
感染経路ごとの考察 ~感染させる可能性~
次に、自分が感染源になる可能性について考えてみます。
「飛沫感染」させない
「飛沫感染」を防ぐために「マスクを着用する」ならば、飛沫を飛ばす距離では、マスクの着用は必要ですが、飛沫を飛ばさない距離では、マスクの着用は不要です。
言い換えますと、せきやくしゃみをしたり、大声で話さなければ飛沫が飛びませんので、マスクの着用は不要です。
ここで気を付けたいのは、近くに人がいるときにせきやくしゃみをする場合は、人がいない方向を向く必要があることです。
人がいない方向を向くことは、マスク着用の有無に関係はありません。
なぜなら、マスクをしていたとしても、布マスクやガーゼマスクでは「飛沫」が通り抜けてしまいますし、不織布マスクを正しく着用していない場合には、せきやくしゃみがマスクで跳ね返されて、顔とマスクのすき間から「飛沫」が飛び出すからです。
「接触感染」させない
次に、「接触感染」を防ぐこととマスクの着用は無関係ですので、マスクの着用は不要です。
「3密」空間で「空気感染」させない
さらに、「3密」空間での「空気感染」について考えます。
「会話や発声」をしないならば、マスクの着用は不要です。
一方で、「会話や発声」をするならば、不織布マスクなどの高機能マスクを正しく着用する必要があります。
言い換えますと、不織布マスクなどの高機能マスクを正しく着用しないならば、「会話や発声」をしてはならないのです。
「マスクを着用する」べき場面
3感染経路のまとめ
このように考えると、
「飛沫感染」を防ぐために、人混みで飛沫が飛んできたり、自分が飛ばしたりする可能性がある環境にいる場合、
「接触感染」を防ぐために、ウイルスがある可能性がある物を触った手指で鼻や口を触る可能性がある場合、
に「マスクを着用する」必要があります。
「3密」空間での「空気感染」を防ぐには、不織布マスクなどの高機能マスクを正しく着用する必要があります。
マスクをしていれば感染可能性を0にできる訳ではありませんが、マスクの種類と着用法を考えることにより、感染リスクを低減することができます。
何より大切なのは、マスク着用の有無にかかわらず、
(1)換気の悪い「密閉空間」、
(2)多数が集まる「密集場所」では、
(3’)間近で会話や発声をしない、
ことではないでしょうか。
のどを潤す効果
もっとも、マスクをすることにより、マスクと皮膚の間に呼気中の水蒸気をためられ、喉を潤すことはできます。
一般に、喉が潤っているとウイルス感染が起こりにくいと言われていますので、感染経路にかかわらず、マスク着用は有効と考えられます。
相手や生活場面をウイルスは選んでくれない
念のため記載しますが、コロナウイルスは、家族や友人、同僚であるかで感染するかを変えてはくれないことです。
また、仕事をしているから、食事をしているから、などの生活場面によって感染しやすさを変えてもくれません。
ランチタイムなどに食堂へ行くと、店に入るまではマスクをしているのに、店で着席した途端マスクを外し、大声で話し出す人を見かけます。
せっかく、マスクをするなら、至近距離で会話をするときに外してはなりません。
また、食事に連れ立っていくときは、マスクを外して無言で食べ、食べ終わったらマスクをして会話をすべきです。
また、屋外で他人との距離をとって歩いている人でも、帰宅するとマスクを外してしまう人も多いのではないでしょうか。
家の中では、どうしても家族との距離が縮まり、密接な会話になりがちです。
そこで、感染を防ぐには、家の中でも必要に応じてマスクをすべきです。
念のため記載致しますが、ウイルスが体内に入ることを完全に防ぐことは不可能です。
そこで、身近な人の前だからといって気を抜くのではなく、感染させないためにマスクをしなければなりません。
場面に応じた「マスク着用」でストレス軽減
何のためにマスクをするか考えると、「四六時中マスクが必要」というストレスを感じずに済みます。
暑さが厳しくなる今日この頃、「目的」を意識しながら、「手段」である「マスクの着用」を考えてみてはいかがでしょうか。
なお、「マスクの着用」以外の対応策の検討を別稿で行っておりますので、ご参照いただけますと幸いです。
都内国立大学で、微生物や植物細胞を用いた研究を行った後、がん遺伝子やレトロウイルスの研究を行い、博士(医学)を取得しました。会社員生活を経た後、実定法から基礎法まで幅広く学び、法務博士(専門職)を取得しました。
大学院修了後には、戦略系経営コンサルティングファームに入社し、製造業やサービス業の、業務改革や新規事業開発に取り組みました。その後、創薬系バイオベンチャーで、がん治療に関する研究開発・事業開発を行いました。現在は、訴訟関連の法務サービスに従事しています。