予測についての思い込み
「予測」は「確実な未来」ではない
新型コロナウイルス感染症について、将来の感染者数や死亡者数の予測がなされています。
「予測」であるにもかかわらず、私たちはそれが「事実」であり、「確実な未来」であるかのように思ってしまいます。
しかし、「予測」を「確実な未来」と考えてしまうと、誤った判断をする可能性が高くなります。
新年の景気予測は、上昇・下降の両方
新年になると、今年の景気予測がよくなされます。
どのような根拠を持って予測をしているかは、予測者によって異なります。
複雑なモデルを組んで予測する評論家もいれば、体感で予測する経営者もいるでしょう。
予測を聞く私たちは、そうかもしれないなとは思うものの、取り立てて重視しない人が多いと思われます。
何より、景気が上昇すると予測する人もあれば、下降すると予測する人もいる訳ですから、どの予測に従えばよいのかも分かりません。
将来予測の信頼性
モデル(数式)と前提条件、複数シナリオでの計算
一方で、新型コロナウイルスの感染者数の予測に対しては、それが「専門家」によるものであるというだけで、無条件に信じてしまう方が多いように見受けられます。
自然科学の予測も、あるモデル(数式)に基づいて行われています。
そして、ある前提条件を仮定することにより、予測がなされる訳です。
確実なモデルがない状況では、その予測は「当たるも八卦」であり、「確実な未来」ではない訳です。
私は、経営コンサルタントとして、市場規模の将来予測をしたことがあります。
できる限りの情報を集めてモデルを構築しましたが、どうしても「仮定」を入れる必要がありました。
そして、モデル(数式)、前提条件をお客様にお示しした上で、楽観、中間、悲観の3通りのシナリオを作成していました。
どのように考えたかを提示することにより、予測が納得できるものであるかご判断していただいたのです。
新型コロナウイルスについて、感染者数の予測は示されたものの、モデル(数式)、前提条件は、限られた媒体でしか伝えられませんでした。
また、予測に重要な実効再生産数も1通りしか示されず、複数を仮定することがありませんでした(私が把握していないだけでしたら、申し訳ありません。)。
このような状況では、予測の確からしさの議論ができず、信用はできません。
信頼性判断基準
将来予測をどの程度信頼できるかの最低限の判断基準は、
・モデル(数式)が示されているか、
・前提条件が示されており、複数のシナリオ(最低3通り)で計算がなされているか、
ではないかと思います。
それらが示されない結論だけの予測は、残念ながら信頼には値しません。
また、過去からの変動を含めたモデル作成の場合、過去の変動を無視したものは、信用できません。
もちろん、新型コロナウイルスのケースでは、ウイルス遺伝子の変異が確認された場合には、過去と一致しないモデルでの将来予測は可能です。
細かい数式の是非を確認することは、専門的な知識が必要な場合もあり、誰でもできることではありません。
しかし、どんな前提なのか、想定される予測が複数なされ幅があるか、を確認することはできます。
理論優先で現実を見ない予測に注意
注意が必要なのは、理論の美しさにこだわりすぎてしまい、現実と合わない予測がなされるケースです。
理論にばかり目が行くと、「理論に合わないのは現実が悪いんだ!」と思ってしまい、理論を再検討することを怠りがちですが、何のための理論であるのかを冷静に考える必要があります。
そして、感染者数の将来予測のような、現実世界とかかわるモデルの場合、現実と合わなければ、どんな立派な理論でも価値はありません。
難しいのは、恩師が作った理論に弟子が従わなければならないケースです。
自然科学ではありませんが、邪馬台国論争を見ていると学閥の影響力が大きいことを感じます。
勇気が必要でしょうが、多くの人に影響を与える場合、恩師の理論であっても修正を試みてほしいと思います。
予測に振り回されない
不十分な予測でも、「偶然」的中してしまうことはあります。
しかし、予測の納得性を吟味することにより、必要以上に振り回されないようにすることは可能であり、余計な不安を感じずに済みます。
都内国立大学で、微生物や植物細胞を用いた研究を行った後、がん遺伝子やレトロウイルスの研究を行い、博士(医学)を取得しました。会社員生活を経た後、実定法から基礎法まで幅広く学び、法務博士(専門職)を取得しました。
大学院修了後には、戦略系経営コンサルティングファームに入社し、製造業やサービス業の、業務改革や新規事業開発に取り組みました。その後、創薬系バイオベンチャーで、がん治療に関する研究開発・事業開発を行いました。現在は、訴訟関連の法務サービスに従事しています。